TALPKEYBOARDの日記

TALP KEYBOARD(タルプキーボード)は、自作キーボードを楽しむ全ての方々のために、 自作キーボードをつくる上で必要なパーツやキットを販売するショップです。 はてなブログでは、ショップページに書ききれない情報を不定期で掲載してゆきます。

巨大3Dプリンタとの出会いと別れ

お世話になっております。TALPKEYBOARDです。

今回は自作キーボードから離れまして、3Dプリンタについてのお話ができればと思います。とは言っても比較記事や使い方講座ではなく、私が1年と少し付き合った巨大3Dプリンタの話です。私個人の思い出話も入りますが、適当にお読みください。

 

出会い

約2年前、名前は伏せますがとある官民共同のコワーキングスペースの開設に携わりました。しかしファブという名前が入っていながらデジタル機器を誰も知らず、ビッチスタートアップスタートアップピッチと中身のない横文字を話す方々ばかりでしたので、開設の目処をつけたタイミングで転職活動を行なっていました。自作キーボードを制作する上で、レーザー加工機3Dプリンタをしっかり勉強したいと思っていた矢先に、名前は伏せますがとある官学共同のデジタル工房の開設というお話があり、入る事となりました。

3Dプリンタレーザー加工機と卓上CNCフライスなどの加工機材やモーションキャプチャ等計測装置類もそろえてあるし、施設もしっかりしている、機器管理だけで楽だと言われました。

あくまでもTALPKEYBOARDが本業ですので、本業に差し障りない程度で楽しく仕事できればと思っていました。本格的な3Dプリンタを導入していると言っていたけど、たかだか地方の大学と自治体なので、高くてこれ位の3Dプリンタだろうなとたかをくくってました↓

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Ultimaker欲しい。

 

 

しかし現実は甘くなかった↓

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幅1400mm、奥行き1100mm、高さ1260mm、重さ430kg。隣の樹脂タンクは重さ80kg超。ストラタシス社のObjet500 Connex3という3Dプリンタでした。3種類の色や硬さの異なる樹脂を混合してベースに噴射、同時にUVランプで固化させてゆくという方式です。イスラエル製。そして価格は秘密ですが4桁万円後半。Ultimakerが100台。i3Mega2000台。2000台って。それが普通のオフィスの会議室みたいなとこに、カーペットの上にぽつんと置かれてました。

前任者は退職。今は一ヶ月短期で作業服着たおじさんが掃除してる。質問したら、掃除以外わかんないんだって言われた。

やばい、絶対入るとこ間違えた、少なくともこいつは俺が最初にさわる3Dプリンタでは絶対にないと瞬間気づいたのですが、まて、こいつを自由にさわれる機会は人生で最初で最後かもと思いなおし、まあできなかったら辞めればいいしという気軽な気持ちで、操作と運用管理を独学で覚えてゆきました。設置場所も安全な階下に移設し、電源も増設、冷却装置も導入など、いつでも利用できる環境を整えてゆきました。

DMMさんがアクリルで使っている機材がこれの上位機種だったと思います。

 

巨大3Dプリンタの説明

さすが高いだけあって、一般的な3Dプリンタと異なり変な作りをしています。トレーサイズは幅490 × 奥行き390 × 高さ200 mmです。でかい。トレーは定盤みたいな厚さで平面がしっかり出ています。トレーはなにか傷のつかない金属で、なにか特殊なコーティングがしてあります。外気温が動作保証温度を超えない限り、定着不良で造形物が吹っ飛ぶことはありません。プリントヘッドがX軸Y軸で動き、Z軸はトレーが下に下がってゆく作りです。

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このような形でトレーが下がってゆきます。動作時にはトレーの左にあるゲートが開いて、定期的にプリントヘッドの廃液などを流してゆきます。ケーブルやチューブがたくさんむき出しになっているのがアキラっぽくて、ちょっとかっこいいです。
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プリントヘッドは8本のノズルがついています。2個で対になっていて、3セットが樹脂用、1セットがサポート材用です。サポート材も樹脂でできていて、造形が完了すると舟和の芋ようかんみたいな色と柔らかさで造形物にへばりついています。ヘッドは30cm四方程度の大きさがあります。ノズルに接続されているチューブ、バキューム用のチューブなどが裏面にたくさんあって、なんかもう機械のバケモノのようでした。

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むき出しの配線ケーブルやらチューブだらけです。これで完成品なのかしらというのと、これで4桁万円ってなんだよって思っていました。カバーつけようよ。

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ちなみに樹脂のチューブはノズルからタンクの間、全て樹脂で満たされています。サポート材もしかりです。ノズルにはバキュームがついていて、停止時に樹脂の漏出を防ぎます。ですので、通常3Dプリンタの電源を落とすことはありません。電源を落とす際は、樹脂を完全に排出し代わりにクリーニング材を充填するというプロセスを踏まないと、チューブやノズルに残った樹脂が固着し、使い物にならなくなってしまいます。しかしこの停止処理も3時間程度かかり、手がかかる代物なのです。

チューブを始めとした消耗品は定期点検の際にごっそり交換されます。どうもノーメンテでずっと動かせる日本製品の考え方とは異なり、メーカーによって定期的に部品を交換して動かしてゆく考え方で作られているみたいです。ですので、メーカーサポートが切れて部品交換がなされないものは、いつかパイプの詰まりなどが発生して動かなくなるそうです。この下位機種がリースアップで放出されヤフオクで数万円で販売されているケースがあるのですが、ほぼ使えないそうです。

ただし毎日やるべき整備点検もあります。ヘッドにある、不要な樹脂を掻き取るブレードの点検交換とヘッド周りの樹脂清掃です。清掃は拭いてあげるだけですが、ブレードは下の写真に映る微妙に小さいビス類を外して取る必要があります。めちゃくちゃ整備性悪いです。高いのに。ブレードは薄いカミソリの刃みたいな作りですが、曲がっていると造形物が変形したりぶっこわしたりします。ビスをトレーの下に落とすと取れないのでオンサイトサポートを呼ぶはめになります。お願いだからそこはメンテフリーで作れよと思っていました。

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樹脂タンクです。樹脂カードリッジは一つ3.5kgあります。それが1つの樹脂ごとに最大2本入ります。ちなみに樹脂カードリッジの価格は1本20万弱、サポート材の価格は1本5万円程度だったと思います(ここ大切)

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そんな高額な樹脂カードリッジですが、大変恐ろしいことに使用期限があります。樹脂の種類によって異なりますが、およそ1年半から短いもので半年です。ですので樹脂買ったはいいけど使わなかったとなると、使えなくなって廃棄という目にあいます。

でも使用期限過ぎてもばれなくない?使えるんじゃない?と思ってメーカーサポートに聞いたら、樹脂カードリッジにRFIDタグが付いていて、タンク側と通信して記録しているそうで、使用期限をすぎるとシステム上で弾かれてしまうとのことでした。

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プリンタ左側のフタを開けると、廃棄樹脂タンクが見えます。造形していなくても樹脂をチューブ内で固まらないように循環させています。またノズルから少しずつ樹脂がでますので、廃液は溜まってゆきます。造形時は随時ノズルを清掃しますので、廃液が溜まります。三ヶ月にひとつ、9リッターの廃棄樹脂タンクが満タンになる感じです。おいおいいくらだよそれ...

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アクリル造形やフルカラー造形の出力サービスはなかなかの価格になっていますが、内訳は樹脂単価が非常に高額、廃棄樹脂が相当数出てしまう、管理コスト(人件費)がかかる、そもそも機材が非常に高額、ということです。

 

巨大3Dプリンタの造形物

手つくりました。

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こんな感じで舟和の芋ようかんのようなサポート材がトレーと造形物の間にすきまなく埋められます。

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まずは舟和の芋ようかんをとります。造形物を傷つけないようなものでかきとってゆきます。サポート材と造形物が触れていた部分は造形物表面にサポート材が食い込んでいるような状況ですので、歯ブラシなどで磨いて落とします。

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プラスチックビーズの入ったウォーターブラストです。これでサポート材を吹き飛ばします。何度か確認しながら取り去り、最後はウォーターブラストを洗い流します。

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こんな感じに仕上がりました。表面が荒れていたので全体的に磨いてはいます。形状はかなり精度よいのですが、アクリルライクと銘打っているせいか、割れやすいという弱点があります。普通のアクリルより弾性に欠けるイメージです。もう一つの弱点は、光硬化型の樹脂であるために、時間がたつと劣化してきてしまいます。メーカーはプロトタイプ用と言っていますので、モックアップ、形状確認用という用途なのでしょうか。

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磨くの頑張りました。オレンジのトレーは市販品です。

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巨大3Dプリンタとの別れ

あまり細かく書くと全方位にディスりはじめてしまいますので、さらっと書きます。出会って1年ほどでそこそこ使いこなせるようにはなったのですが、この機材がわかる程、私が考える用途では難しいなと重い始めました。

まずコストがとんでもなく高いこと、形は精密だが強度と耐久性に欠けるということで、二の足をふむ依頼者ばかりだったことがあげられます(依頼者が地方の中小企業か学生だったということもあります)。

造形物が精密だということでキーボードの筐体に利用できるのではとも考えたのですが、先に記した経年変化の耐久性と割れやすいという弱点と、造形物の表面が微妙にざらつき、後加工がどうしても必要だということがわかり、無理だと判断しました。番手を変えて磨きを書けたあとにクリアを吹いてプロトタイプやサンプルにしているそうでしたので。そうであれば設定を追い込んだFDMの3Dプリンタのほうが費用も圧倒的に安く、弾性や剛性をフィラメントの材質で選択できるという点が、メリットがあるかと思っています。

という結論が頭の中に固まってきていたタイミングで、プロジェクト自体の先行きが見えなくなってきて、運営業務が私に追加され負荷が高まってきましたので、そろそろ潮時かと思い、巨大3Dプリンタとお別れすることにした次第です。

おそらくこのような費用がかかる機材は特定用途以外は寂れ、FDMの3Dプリンタがより主流になるのかと思います。学んだ技術は今後に生かしづらいものになりましたが、3Dプリンタを1年半でここまで学ぶこともなかなかないですし、超高額な機材を一人でいじれる機会ももうないと思います。良い経験になったかなと思っています。

というわけで、少し前に流行った退職エントリみたいになりましたが、改めてキーボード頑張ろうと思います。今後ともよろしくお願いいたします。

 

2020年5月5日追記

この記事を書いてからしばらく経ちました。コロナ感染症の影響による外出自粛は今月末まで延長となり、私たちは必要最小限の買い物を除き自宅で過ごす生活を余儀なくされています。色々な情報が流れる中、当面は私たちの行動様式を今の延長線上で考えておいていないとならないという方向になりそうです。その上において、今後必要な業種、伸びる業種、逆に衰退する業種の分類がなされてきています。その中で衰退する業種の具体例としては観光業、ホテル、レストラン、映画館などの人が長時間とどまる施設が多く挙げられています。

私は衰退する業種(というほど規模は大きくはありませんが)の一つとして、いわゆるファブラボ施設も挙げられると思っています。複数の人数が長時間滞留する、場合によってはワークショップで半日などというのは、現状を鑑みると非常に厳しいと思います。タイミングが悪い事に、ファブラボの設置している程度の性能を持った装置は個人で購入できるレベルまで価格が落ちて来ました。共用工具より個人の専用工具のほうが他人や時間を気にせず利用できます。

また収支面でも昨年くらいから資金面で閉店する施設が、有名なところでもいくつか見受けられるようになりました。今後はコンセプトの練り直し含め、うまく形を変えていないと生き残ってゆけないと感じています。

その中で、このプリンタが設置されていた施設がどうなるか。大学側の施設運営の考え方、学生や不特定多数の人間を施設に出入りさせるかも含め再考の対象になるでしょうが、プリンタの使い勝手の問題や、所有する研究室の研究テーマとの乖離で利用件数が全く伸びなかった事、事業モデルを検討できる人員がいない事などを含め、残念ではありますが、存続は極めて厳しいのではないかと思っています。